睡眠不足が引き起こす症状~仕事のミスや交通事故、生活習慣病のリスク~

この記事のポイント

  1. 睡眠不足は認知機能を低下させ、無自覚のうちにミスを増やす
  2. 睡眠不足は肥満・高血圧・高血糖・脂質代謝異常などの生活習慣病につながる
  3. 睡眠不足も生活習慣病も自覚がないことが多いため、定期的な健康診断を!

日本はOECD加盟国30カ国の中で、平均睡眠時間が最短という調査結果が2021年に発表されました。睡眠不足大国となってしまった日本ですが、「自分は睡眠時間が短くても昼間に眠くならないから大丈夫!」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は睡眠不足が日常生活や身体にとって、具体的にどのような悪影響をもたらすかについてご説明します。

睡眠不足って悪いことなの?

睡眠時間が短かったり睡眠の質が悪いと睡眠不足の状態になります。慢性的な睡眠不足は日中の眠気や注意力の低下、記憶力の減退など認知機能の低下を引き起こし、仕事や家事、勉強などのパフォーマンスの低下につながります。また、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼし、身体的健康にも有害な影響を多くもたらします。では、睡眠不足がどのような影響をもたらすのか、具体的にみていきましょう。

睡眠不足がもたらす日常の影響

①認知機能が低下する

記憶力が悪くなる、ミスが増える、作業能率が悪くなるなどの認知機能障害が、睡眠不足によって最も顕著にあらわれる影響です。個人個人で適切な睡眠時間は違いますが、一般的には一晩の睡眠が7時間未満であると認知機能の低下が見られると言われています。
また、認知機能の低下は単なる眠気のためだけではなく、神経細胞(ニューロン)の疲れであるという実験データが増えてきています。情報の伝達と処理を行う神経細胞の働きによって人間の脳は複雑な働きができますが、長時間起きていることでその細胞の機能が低下してしまうのです。睡眠不足が長期間続いた後に一晩だけしっかり眠たとしても、神経細胞のすべての機能を回復することはできません。「平日の睡眠時間が短い分、日曜日は一日中寝て寝貯めする!」というような不規則な睡眠では睡眠負債は取り切れないということです。
では具体的に、認知機能の低下は日常生活の中でどのようなデメリットをもたらすのでしょうか。代表的なものを挙げてみます。

  • 仕事
    睡眠不足が原因の認知機能低下によって支障をきたす代表格は、仕事上のミスです。特に持続的な注意力を必要とするタスクでは、数時間の睡眠不足であっても影響が出る可能性が指摘されています。論理的推論や複雑な文の解析、柔軟な思考スタイルなどが求められるタスクにおいては、一晩だけの睡眠不足であっても脳の活性化が妨げられ、普段どおりのパフォーマンスを発揮できないとされています。
  • 交通事故 
    過度の眠気はアメリカにおけるトラック死亡事故の半分以上の原因となっているそうです。一方で、「睡眠不足ではあるが眠気は感じていない」という人でも自動車事故のリスクは上昇します。
    平成29年に日本の警察庁が、75歳以上の高齢者の自動車事故の多くは認知機能の低下によるものと発表しました。高齢の方が自分自身の認知機能の低下を自覚せず事故を起こしてしまうのと同様に、睡眠不足による認知機能障害も、多くの場合本人は自分の認知機能の低下を自覚していません。つまり、「睡眠時間が少なくても眠くならないから大丈夫!」という思い込みは大変危険であるということです。
    また、日中の気が緩んだ瞬間に突然数秒間だけ眠ってしまうマイクロスリープという現象があります。自分自身でコントロールして眠っているのではなく、瞬間的に脳の活動レベルが低下して、わずかな時間だけ睡眠状態に入ります。大抵は睡眠不足が原因で、マイクロスリープに陥っていることに本人も気づかないことが多くあります。
    たかが数秒と思うかもしれませんが、自動車運転中に数秒間でも眠れば、事故に繋がる可能性は十分あります。睡眠不足の際には運転を避ける、運転の前には睡眠をしっかりとることを意識してください。

②QOL(生活の質)の低下

慢性的な睡眠不足によって、QOL(生活の質)が低下したという報告が多くあります。エネルギー不足で趣味の活動を楽しめなかったり、職場で生産性が低下して叱責されたり、家庭や学校で不適切に居眠りをしたりと、様々な理由でQOLの低下が生じます。
また、睡眠不足はうつ症状や不安障害に似た精神状態をもたらすこともあります。気分の落ち込みやイライラ感、意欲喪失、判断力の低下などはそれだけでもQOLが大変低下してしまっていると言えますし、仕事や対人関係もより不安定になってしまいます。うつ病などの病気と違い、正常な睡眠をとればこれらの症状は大抵消失します。活力のある楽しい日々を過ごすためにも睡眠の大切さを見直しましょう。


③免疫力の低下

睡眠不足は免疫力を低下させます。つまり、風邪などを引きやすくなってしまいます。
アメリカでの研究結果では、睡眠時間が7時間未満の人は8時間以上の人に比べて、風邪を発症する可能性が2.94倍となりました。また、睡眠効率(ベッドや布団に入って眠ろうとしている時間に対して実際に眠っている時間の割合のこと。寝付きが悪かったり途中で起きてしまったりすると低下する。)が92%未満の人は、98%以上の人と比べて風邪を発症する可能性が5.50倍でした。睡眠不足によって風邪を発症しやすくなること、特に睡眠の質が低いことによる睡眠不足では、その傾向がより顕著であることが明らかになったということです。
また、睡眠不足の状態を続けた後にインフルエンザウイルスのワクチン接種を行ったところ、通常よりもできた抗体が少なく、ワクチンの効果が下がってしまったというデータもあります。

睡眠不足で生活習慣病に!?

①肥満

睡眠不足は体内のホルモン分泌に大きな影響を与え、肥満のリスクを高めます。たとえば二日間だけでも睡眠時間が短くなると、食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌が減少し、食欲を亢進するホルモンであるグレリンがたくさん分泌され食欲増加に繋がることがあります。また、代謝が低下して脂肪がつきやすいこともあり、肥満のリスクが高まることが知られています。


②高血圧・高血糖・脂質代謝異常

睡眠不足が高血圧や高血糖に繋がる理由として、様々なことが関連するといわれています。
睡眠不足による自律神経の乱れから交感神経を過剰に活発にすることがあります。交感神経が優位な状態では血圧は上昇しやすくなり、慢性化すると高血圧症になる恐れがあります。
また、自律神経の乱れや日常生活の支障、疲労が溜まりやすいことなどから、ストレスが増加します。ストレスを感じると、それに対抗するためコルチゾールというホルモンが分泌されます。このコルチゾールは、血圧や血糖値を上昇させるため、高血圧・高血糖になりやすいです。
また、コルチゾールは浅い睡眠をしているときにも分泌されやすいこともわかっています。睡眠は、入眠直後に最も深い眠りに入り、明け方になるにつれて浅い眠りになっていきます。深い眠りのときは、細胞の修復や疲労回復、脂質の代謝を促してくれる成長ホルモンが分泌されます。一方明け方になると、すっきりと目覚めて活力のある日中を過ごすためにコルチゾールが分泌されます。血圧・血糖を上昇させて、起きる準備に取り掛かりますが、睡眠不足になるとこのバランスが崩れます。寝付きが悪い、夜中に何度も起きてしまうなどで深い睡眠に入れないと成長ホルモンが足りず、脂質代謝異常を招きます。その上で浅い睡眠時にコルチゾールが分泌されて血糖値が高くなると、それを下げようとするホルモンのインスリンが分泌されますが、インスリンは余った糖分を脂肪に変えてしまう働きがあり、結果的に肥満になるリスクも高まります。


③CVD(心血管疾患)

脳卒中・心筋梗塞・心不全などの心臓や血管に関連した病気のことをCVD(心血管疾患)と言います。明確な因果関係は証明されていませんが、複数の実験において睡眠不足がCVDのリスクを上昇させるというデータが示されています。
2019年に発表されたアメリカの研究では、「1日の睡眠時間が7~8時間で睡眠の質が高く、生活リズムが朝型」などの条件下では、CVDリスクが35%低下する結果が示されました。
睡眠不足によってCVDリスクが高まる理由の一つとして、炎症性サイトカインの増加が挙げられています。サイトカインは細胞から生産・分泌される物質で、免疫機能のバランスを保つ役割をしています。体内に病原体などの異物が入り込んだときに排除を促す「炎症性サイトカイン」と、反応が過剰にならないための「抗炎症サイトカイン」の2種類があり、バランスを保っていてこそ健康な身体でいられます。しかし、比較的軽い睡眠不足であっても、炎症性サイトカインが増殖しすぎてバランスを崩すことがわかっています。そうなると、異物ではない自分自身の身体を傷つけてしまい、疾患を引き起こすきっかけになることがあります。

④COPD(慢性閉塞性肺疾患)

これまで睡眠不足が原因で引き起こされる生活習慣病を紹介してきましたが、COPDの原因はほとんどが喫煙であり、睡眠不足によって引き起こされるわけではありません。ただし、COPDが原因で睡眠障害が起こって睡眠不足になることは多くあります。COPDでは肺の機能が低下しますが、睡眠中は低機能状態がより悪化します。これにより睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気管の空気の通り道である上気道が閉鎖することによって何回も呼吸が止まるため、ただでさえ呼吸困難の症状を呈するCOPDの人が、より睡眠中に十分な酸素を身体に送ることができなくなり、重篤な病気へと進行することがあります。
睡眠時無呼吸症候群では質の高い睡眠は取れず、睡眠不足状態となります。呼吸筋の持久力も睡眠不足に影響を受ける可能性があるという研究データもあるため、ますます状態が悪くなってしまうことが予想されます。

定期的な健康診断を!

「自分は睡眠時間が短くても平気なタイプ」と思っている方もいらっしゃると思いますが、今回ご説明しました通り、自分の認知機能の低下は自分で気が付かないことが多くあります。また、睡眠不足と関係性の深い生活習慣病は、初期段階ではほとんどのものが無症状です。定期的に健康診断を受けて自分の身体の本当の状態を知り、睡眠についても見直していく必要があります。
サルスクリニックでは、健康診断も睡眠時無呼吸症候群の検査も常時承っております。検査の結果、血圧や血糖などに異常があれば、管理栄養士による栄養指導で改善していくことも可能です。ぜひお気軽にご相談ください!

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