2型糖尿病の食事療法 ~適切なエネルギー量で食事をしましょう!~

この記事のポイント

  1. 糖尿病の食事療法は糖質制限だけではダメ!1日の総エネルギー摂取量(カロリー)を守りましょう
  2. 食品の栄養量は、簡単に調べられます
  3. 食事療法は一人ひとりに合わせて、個別化する時代です

糖尿病の食事療法と聞くと、糖質を減らせば良いんでしょ?と考える方が多くいらっしゃいますが、実はそれだけでは十分ではありません。1日当たりの総エネルギー摂取量も考慮した上で食事療法を進めていく必要があります。
糖尿病食事療法の最重要ポイントは、「適切な総エネルギー摂取量での食事」「栄養バランスの良い食事」「1日3食、規則正しい食生活」の3点です。
このコラムでは、「適切な総エネルギー摂取量での食事」についてお話します。

2型糖尿病の食事療法の目的は?

2型糖尿病の食事療法の目的は、長期にわたり良好な血糖コントロールを維持して合併症の予防と進行を抑制し、健康な人と変わらない生活の質(QOL)を保ち、健康な人と変わらない寿命を全うすることです。
目的達成のために食事療法は重要で、体重に見合う総エネルギー摂取量を設定する必要があります。また、目指すべき体重はそれぞれの人の年齢・病態などによって異なることを考慮し、個別化を図ることが必要とされています。
糖尿病の治療開始時に、総エネルギー摂取量の目安を医師や管理栄養士と設定します。この時に、病態・年齢・体組成・代謝状態の変化を踏まえて設定し、その後の経過を観察していきながら、適宜目安を変更していきます。

1日の総エネルギー摂取量の求め方

総エネルギー摂取量に関する考え方は2019年に変更されています。
従来、総エネルギー摂取量は、BMI22(ボディマス指数)を基準とした「標準体重」を用いて算出していましたが、糖尿病診療ガイドライン2019では、65歳以上は総死亡率の最も低いBMIをもとにした、年齢に応じて算出する「目標体重」へ変更されました。そのため、BMIは22~25の幅ができ、総エネルギー摂取量の目安にも個人差がでるようになりました。

以前の算出方法

総エネルギー摂取量(kcal/日)=標準体重(kg)×身体活動量(kcal/kg標準体重)

標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
身体活動量(kcal/kg標準体重):
①軽い労作(デスクワークが多い職業など):25~30
②普通の労作(立ち仕事が多い職業など):30~35
③重い労作 (力仕事が多い職業など):35~

現在の算出方法

総エネルギー摂取量(kcal/日)=目標体重(kg)×エネルギー係数(kcal/kg)

  • 目標体重(kg)の目安

65歳未満:身長(m)×身長(m)×22
65歳~74歳:身長(m)×身長(m)×22~25
75歳以上:身長(m)×身長(m)×22~25 
※75歳以上の後期高齢者では現体重に基づき、フレイル、(基本的)ADL低下、合併症、体組成、身長の短縮、摂取状況や代謝状態の評価を踏まえ、適宜判断する。

  • 身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)

①軽い労作(大部分が座位の静的活動):25~30
②普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む):30~35
③重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある):35~
※高齢者のフレイル予防では、身体活動レベルより大きい係数を設定できる。また、肥満で減量をはかる場合には、身体活動レベルより小さい係数を設定できる。いずれにおいても目標体重と現体重との間に大きな乖離がある場合は、上記①~③を参考に柔軟に係数を設定する。

簡易式

減量が必要な方(肥満の方)は、総エネルギー摂取量(kcal/日)=標準体重(kg)×25
減量が不要な方(標準体型の方)は、総エネルギー摂取量(kcal/日)=標準体重(kg)×30

上記のように、肥満の有無で算出する簡易式という方法もあり、今もなお臨床の現場ではこの方法を用いて算出していることもあります。しかし、この方法では年齢や病態への考慮が不十分なこともありますので、現在の算出方法で総エネルギー摂取量を設定するのが望ましいです。

例:高齢女性の総エネルギー摂取量の計算

高齢女性を例に、総エネルギー摂取量の計算をしてみましょう。

78歳 女性 150cm 45kg 1日の大半は家事をして過ごす専業主婦の場合

〈以前の算出方法〉
総エネルギー摂取量(kcal/日)=標準体重(kg)×身体活動量(kcal/kg標準体重)
標準体重:1.5×1.5×22=49.5kg
身体活動量:軽い労作(デスクワークが多い職業など):25~30(kcal/kg)
総エネルギー摂取量:49.5(kg)×25~30(kcal/kg)≒1250~1500kcal

〈現在の算出方法〉
総エネルギー摂取量(kcal/日)=目標体重(kg)×エネルギー係数(kcal/kg)
目標体重:1.5×1.5×22~25≒49.5~56kg
エネルギー係数:普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む):30~35(kcal/kg)
総エネルギー摂取量:49.5~56(kg)×30~35(kcal/kg)≒1500~2000kcal

このように、以前の算出方法と現在の算出方法では、総エネルギー摂取量の差が大きいことがわかります。
この例では高齢女性での算出をしていますが、高齢女性が2000kcal食べられるのかどうかという問題もありますので、現在の食事摂取状況なども加味した上で、総エネルギー摂取量は設定していくことが望ましいです。一人ひとりに合った総エネルギー摂取量を設定するためにも、医師や管理栄養士へ相談してみましょう。
エネルギー過多は肥満を助長するだけでなく、動脈硬化の進行などにも悪影響を及ぼします。自分に合った適切なエネルギー量での食事摂取を心がけましょう。

食事のエネルギー量を把握する方法

1食当たりの摂取エネルギー量は、1日の総摂取エネルギー量を3等分にしたエネルギー量が望ましいです。例えば、総エネルギー摂取量1日1800kcalの場合は、1食当たり600kcalが目安となります。
食品を購入する際は、パッケージに栄養表示が記載されているので、確認する習慣を作りましょう。栄養表示に記載されている栄養量が1食当たりなのか、100g当たりなのかは注意が必要です。手料理の栄養量を手軽に調べたい時は、書店で販売している一般の方向けの本や、食事管理アプリを活用するのが良いでしょう。
これらに表示されている栄養成分のベースは、食品成分表を用いて算出された値です。食品成分表は書店で購入できますし、文部科学省のホームページで「食品成分データベース」と検索すれば、食品ごとの栄養成分を調べることができます。さまざまな栄養成分を調べることができる食品成分表ですが、玄人向けなので一般の方には少々難しいのが難点です。前述の一般の方向けの本や食事管理アプリの活用がオススメです。

サルスクリニックには管理栄養士がいます

私たち管理栄養士が栄養指導で心がけていることは、無理しすぎず、続けられる提案をすることです。食生活だけでなく、ライフスタイルや職業などの背景を踏まえ、実行できる内容を患者さんと共に考え、その継続をサポートします。生活習慣病について栄養指導を受けたい方は、一度当院を受診し医師へご相談ください。
保険適用の栄養指導では、1日の総エネルギー摂取量や塩分量など、医師の指示に基づいて栄養指導を行います。2回目以降はオンラインでの指導も可能ですので、ご来院が難しい方はお気軽にお申し出ください。
また、サルスクリニックでは保険適用外の栄養指導も実施しています。保険適用の栄養指導には、実施回数や対象疾患などの細かな決まりがあります。指導回数を増やしてしっかりフォローして欲しい方、また、病気はないけれどダイエットをしたい方などは、こちらの保険適用外の栄養指導をお受けいただくことが可能です。お気軽にご相談ください。

 

 

参考文献:日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂, 2019.

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