シックデイ時に血糖値が不安定になるのはどうして?
発熱・下痢・嘔吐などの病気にかかると、ストレスホルモンが分泌されます。ストレスホルモンの多くは、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の働きを抑制するため、高血糖状態になりやすいです。
高血糖状態では、濃くなった血液を薄めるために血液中の水分量が増加します。すると、増えた水分を体外に排出するために尿量が増え、身体は脱水状態となります。加えて、病気による下痢や発熱も脱水を強め、また食欲低下している場合は食事からの水分摂取も減りさらに脱水状態を強めてしまいます。その上、脱水状態となると血液が濃縮されるため血糖値がより高くなってしまい、高血糖による脱水→脱水による高血糖→…と悪循環に陥りやすいです。
このように、シックデイ時は高血糖になりやすい一方で、食事が食べられない状況でいつもと同じ量の薬を使用すると低血糖を起こしてしまうこともあるため厄介です。
シックデイ時は、血糖コントロールが乱れやすく、高血糖・低血糖のどちらにも対処していく必要があります。
シックデイを甘くみない!重症化する可能性もあります
シックデイを、「ただの風邪だから」「すぐ治るだろう」と考えるのは危険です。前述した通り、シックデイ時は、血糖コントロールが乱れやすく、高血糖・低血糖のどちらにも対処していく必要があります。著しい高血糖(高浸透圧高血糖状態※1)やケトアシドーシス※2により昏睡状態になって命に関わることもあります。高浸透圧高血糖状態やケトアシドーシスの危険サインが現れたら、迷わずに医療機関を受診しましょう。
※1 高浸透圧高血糖状態とは…著しい高血糖(600mg/dL以上)と高度脱水によって意識障害を起こす病態です。インスリン治療を受けていない2型糖尿病の人でも起こります。感染症や手術、薬剤の影響で高血糖を起こした場合に発症しやすいです。特に高齢者に多く、治療が遅ければ死亡することもあります。
〈高浸透圧高血糖状態の危険サイン〉
特徴的な自覚症状はなく、倦怠感・頭痛・消化器症状など
※2 ケトアシドーシスとは…インスリン欠乏によって引き起こされる代謝障害で、傾眠~昏睡に至るさまざまな意識障害が現れます。インスリンが極度に不足すると高血糖(250mg/dL以上)のほか、血液中のケトン体が増えて血液が酸性化し、その状態が続くことで意識障害を起こします。インスリン注射の急激な減量や中止、感染症、暴飲暴食などの食事の不摂生、手術などが誘因となります。とくに、インスリン治療をしている1型糖尿病の人がインスリンを中止した際に起こりやすいです。治療が遅ければ、死亡することもあります。
〈ケトアシドーシスの危険サイン〉
喉の渇き・多飲、多尿・全身倦怠感・消化器症状(嘔吐・腹痛)・体重減少 など
シックデイを乗り切るためのシックデイルールとは?
- 温かくして、安静に過ごしましょう
体力の消耗を防ぎ、回復が早まります。 - 食事・水分をできるだけ摂りましょう
発熱や下痢、嘔吐があれば脱水になりやすいので注意が必要です。 - 症状のこまめなチェックをしましょう(血糖値・体温・血圧・自覚症状・食事量など)
血糖測定器を持っている方は、3~4時間に1回を目安に血糖値をチェックしましょう。 - 自己判断で薬物療法を中止しない
シックデイ時の対応は、人それぞれ異なります。事前にシックデイ時の対応を主治医へ確認しておきましょう。
※インスリン注射は自己判断で中止せず、必ず医師へ確認しましょう。
※飲み薬によっては食事量に合わせて服薬量を調整したり、中止するものがあります。 - 早めに主治医へ連絡する
ただの風邪かもしれない、と考えて医療機関への受診を控える方がいます。以下のような場合は、我慢せずに受診しましょう。
・高熱が続いている時
・高血糖(350mg/dL以上)が続いている時
・下痢や嘔吐などの消化器症状が強い時
・食事が全く摂れない、食事量が著しく少ない時
・インスリン注射や内服で迷った時
※場合によっては、入院治療が必要になることもあります。おかしいなと感じたら早めに医療機関を受診しましょう。
シックデイ時の食事のススメ
シックデイ時は食欲が低下しがちですが、食欲がなくても絶食せずに、消化がよくて口当たりの良いものを食べましょう。
普段は血糖値に配慮した食事をしていても、シックデイ時は絶食状態を回避することが最優先なので、「食べられるもの」を優先しましょう。消化に配慮した食事のポイントとおすすめの食品は、以下になります。
シックデイ時の食事のポイント
- 脂質の多いものや、食物繊維の多い食品は消化に悪いので控えましょう。
- 消化を良くするために、調理の際は小さく切って柔らかく調理しましょう。
- 調理時は消化に配慮して油の使用は控えましょう。
- 胃腸への負担を軽減するために、香辛料・食塩・酸味の強いものは控えましょう。
消化に配慮したおすすめの食品/料理
- 穀物…食パン・おかゆ・うどん
白がゆよりも玉子がゆなどたんぱく質を一緒に摂れるものが栄養補給の面からもおすすめです。うどんは煮込みうどんの方が消化に適しています。菓子パンやラーメンなどは消化に悪いので控えましょう。 - 魚介類…白身魚
煮魚や蒸し魚がおすすめです。干物や脂の多い青魚、タコやイカなどは消化に時間がかかるため控えましょう。 - 卵類…鶏卵
玉子豆腐、茶碗蒸しは口当たりもよく食欲不振時も食べやすいです。 - 大豆製品…豆腐・ひきわり納豆
冷奴より湯豆腐がおすすめです。また、納豆は普通のものよりひきわりの方が消化に良いです。厚揚げやがんもどきなどは、揚げてあり脂質が多いため避けましょう。 - 乳製品…牛乳・ヨーグルト
ポタージュスープ・プリン・ホットミルクは口当たりもよく食欲不振時も食べやすいです。ただし、下痢をしている時は乳製品は避けましょう。 - 野菜、イモ類…ほうれん草(葉先)・白菜・かぼちゃ・じゃがいもなど繊維の少ないもの
柔らかく煮込んで調理しましょう。たけのこ・ごぼう・セロリ・きのこ・海藻類などは繊維が多く消化に負担をかけるので避けましょう。 - 果物…りんご・バナナ・缶果物など
パイナップルなどの繊維が多い果物は控えましょう。 - 嗜好品…ジュース・アイスなど
絶食回避のために上記のような食品が食べられない場合は、嗜好品で栄養補給しても構いません。シックデイ時は絶食状態を回避することが最優先です。
食事のことでお困りの際は、管理栄養士へご相談ください
シックデイを「ただの風邪だから」「すぐ治るだろう」と考えるのは危険です。シックデイ時は、血糖コントロールが乱れやすく、高血糖・低血糖どちらにも対処していく必要があります。高浸透圧高血糖状態やケトアシドーシスの危険サインが現れたら、迷わずに医療機関を受診しましょう。
サルスクリニックでは、管理栄養士による栄養指導を実施しています。私たち管理栄養士が栄養指導で心がけていることは、無理しすぎず、続けられる提案をすることです。食生活だけでなく、ライフスタイルやご職業などの背景を踏まえ、実行できる内容を患者さんと共に考え、その継続をサポートします。
保険適用の栄養指導では、生活習慣病の指導を中心に、1日の総エネルギー摂取量や塩分量など、医師の指示に基づいて栄養指導を行います。2回目以降はオンラインでの指導も可能です。また、サルスクリニックでは保険適用外の栄養指導も実施しています。指導回数を増やしてしっかりフォローして欲しい方、病気はないけれどダイエットをしたい方などは、こちらの保険適用外の栄養指導を受けていただくことが可能です。食事に関して気になること、不安なことなどがありましたら、ぜひ管理栄養士にご相談ください。
【参考文献】
・日本糖尿病学会 編・著, 「糖尿病診療ガイドライン2019」 P340-341,Q20-8 南江堂 2019年10月
・松久宗英 監修, 糖尿病ガイドシリーズ 糖尿病とシックデイの対処法をよく知ろう テルモ株式会社, 2021年9月 https://mds.terumo.co.jp/diabetes/pdf/guidebook17.pdf