「睡眠の質」を高めて、睡眠不足解消!

この記事のポイント

  1. 睡眠時間が足りていても睡眠の質が低いと睡眠不足になる
  2. ベストな睡眠時間は人それぞれだが、成人の場合おおよそ7時間
  3. 睡眠の質の一つのカギは、入眠直後のノンレム睡眠
  4. 睡眠時無呼吸症候群などの病気で質が低下している場合も

「毎日たくさん寝ているのに昼間も眠くなってしまう」「いくら寝ても寝た気がしない」―― このような方は「睡眠の質」が低い可能性があります。今回は「睡眠の質」とは何なのか、どうすれば質を向上させられるのかを、睡眠のメカニズムからしっかり解説いたします。

「睡眠不足」とは?

睡眠不足とは「睡眠時間が短いこと」のみを指すわけではありません。睡眠には、持続時間(量)と深さ(質)の2つの側面があります。十分と思われる時間の睡眠を取ったとしても、眠りが浅く睡眠の質が低いと、日々の活動に支障をきたしたり、健康に悪影響が出たりすることがあります。そのようなパターンも「睡眠不足」ということになります。
3ヶ月以上ほぼ毎日睡眠不足の状態にあることで、日中に過度な眠気を生じる場合は「睡眠不足症候群」と診断されます。睡眠不足症候群と不眠症は混同されがちですが、睡眠不足症候群は睡眠時間が確保できないことなどが原因であることが多いため、睡眠を取れる機会があればすぐに眠りにつくことができます。一方で不眠症の場合は、眠れる環境にあって疲労も溜まっていたとしても眠りにつくことができません。ただし、不眠症になると結果的に睡眠の時間や質を十分に確保できないため、睡眠不足にもなります。

睡眠時間

最適な睡眠時間は睡眠の質にもよるため一人ひとり違います。一般的には、一晩の総睡眠時間が年齢別の必要睡眠時間に達していない場合(成人の場合6時間未満など)であると「短時間睡眠」であると言われます。
適切な睡眠時間を探る研究は数多く行われています。その結果、平日夜間の睡眠が7時間未満である人たちは7~8時間である人たちよりも集中力が欠如するという報告や、4~6時間睡眠の人たちは2日間全く眠らなかった人と同等の認知能力障害が生じたという結果が示されています。そしてその認知能力障害について、本人は自覚していない場合が多かったとのことです。つまり、「自分の睡眠は問題ない」と思っている人も、実は睡眠時間が足りておらず本来のパフォーマンスを発揮できていない可能性があるということです。
また、年齢によって必要な睡眠は変化します。生まれたばかりの赤ちゃんは寝るのが仕事といわれるように14〜17時間ほど必要です。一般的には幼少期で11〜13時間、学童期で9〜11時間、そして徐々に減少し成人で約7時間、65歳以上で約6時間と、加齢とともに必要な睡眠時間が少なくなるということが報告されています。睡眠不足が続くと、小児期や成長期においては成長ホルモンの分泌が滞り、正常な心と身体の発育に支障をきたします。また、集中力の低下、自律神経の乱れや免疫力の低下、うつや肥満、高血圧や脳卒中・心臓病などのリスク因子となることが知られています。

睡眠の質

8時間以上寝ても日中に眠気があって生活や仕事に支障をきたしている場合には、睡眠の質が低いことが原因で睡眠不足の状態になっていると考えられます。「睡眠の質」を評価する指標について、統一的な見解は今のところありませんが一般的には、

  • 寝付きが良い
  • ぐっすり眠れる(深い眠りにつける)
  • すっきりと起きられる

という感覚があれば「質の良い睡眠」であると言われています。

では、このように感じられる睡眠をとれるか否かは何によって決まるのでしょうか。重要なのは、眠りの種類とバランス、そしてリズムが整っていることです。

眠りの種類とは?

睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という質の大きく異なる2種類の状態で構成されます。まずはそれぞれがどのようなものなのかご説明します。

①レム睡眠

浅い眠りです。夢を見るのはこのときです。目を閉じて眠っているにも関わらず眼球が素早く動き、脳内では記憶の整理や定着が行われています。一方で、筋肉は緩み、身体の疲労を回復します。身体は眠っているけれども脳は覚醒に近い状態にありますので、レム睡眠の段階で起床すると、すっきりとした目覚めになります。

②ノンレム睡眠

深い眠りです。脳波活動が低下し、脳が休息します。身体も休息しますがレム睡眠時ほど筋肉は弛緩しないため、寝返りを打つのはこのときです。ノンレム睡眠の中でも、眠りの深さによってステージ1~4の4段階に分けられます。より深い段階であるステージ3・4では、成長ホルモン(いわゆる「成長」だけでなく細胞の修復や疲労回復に役立つホルモン)が分泌されます。
眠りにつくとまずノンレム睡眠に入ります。通常ここが最も深い眠りとなります。1時間ほどすると浅い眠りに移行してゆき、レム睡眠に入ります。この「ノンレム睡眠→レム睡眠」の流れを1セットとすると、1セットはおよそ90分ほどで、一晩に4~5セット繰り返されます。
睡眠の前半はノンレム睡眠がステージ3・4の深い段階にあり、時間的割合も多く占めます。起床に近づくにつれてノンレム睡眠は浅く短くなり、代わりにレム睡眠が長くなってゆきます。
つまり、「寝付きが良い」ということは非常に重要なのです。睡眠前半の3時間ほど(ノンレム睡眠→レム睡眠2セット分)でより深い眠りに入ることができれば、疲労回復・ストレス軽減・肌のターンオーバー等が促進されるため、心身の健康にも美容にも良いということになります。
また、すっきりと目覚めるためにはレム睡眠のタイミングで起床することがポイントとなります。「今から4時間後に起きなければ」などと目覚ましアラームを使って強制的に起床すると、深いノンレム睡眠中に無理やり起こされる状態となる可能性が高いため、脳の切り替えがスムーズにいかず、辛い寝起きとなってしまうのです。

睡眠の質が低下する原因

①睡眠時無呼吸症候群

眠り始めると呼吸が止まってしまい、血液中の酸素濃度が低下するため目が覚めて呼吸をします。これを繰り返すため、夜中に何度も起きてしまって、深い睡眠がとれなくなります。睡眠の質の低下に加え低酸素も関連して、高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などさまざまな病気のリスクとなります。最近では自宅で検査できる機械もあり比較的簡単に診断や重症度が確認できます。いびきや日中の眠気が気になる方は一度医療機関に相談しましょう。

②概日リズム睡眠障害

なんらかの要因で、体内時計が大きく狂ってしまっている状態です。概日リズム睡眠障害には複数の種類があります。たとえば交代勤務睡眠障害では、仕事が日中勤務の日と夜間勤務の日が混在しているなどの事情によって一定の生活リズムを保てず、上手く睡眠がとれなくなります。その結果、勤務時間帯に眠気が起こったり、注意力が散漫になったりすることがあります。睡眠に大きく関係する深部体温(身体の内部の温度)のリズムや、メラトニン・コルチゾールなどのホルモンリズムは人間が夜に眠くなるような形で備わっているため、夜間勤務がある方は入眠が難しく、寝付いても途中で目が覚めてしまうことが多くあります。

③レストレスレッグス症候群

夕方から深夜にかけて脚を中心にむずむずとした感覚が出現し、じっとしていられなくなる病気です。布団に入ってもじっとしていられず、眠くてもなかなか眠りにつけません。眠れたとしても深い睡眠をとることは難しくなります。鉄欠乏性貧血や透析をされている方などに多い症状ですが、きちんと原因を特定するために、医療機関で検査しましょう。

④いびき

いびきは睡眠中に気道(息の通り道)が狭くなることによって起こります。狭い気道に無理やり息を通すために、鼻や喉が振動して音が出る仕組みです。つまり、いびきをかいている時は通常よりも呼吸がしにくく余計な力がかかるため、深い睡眠を取りづらくなってしまいます。

睡眠の質が下がるその他の要因

①メラトニン不足

メラトニンは夜になると昼の数十倍に増え、入眠を促すホルモンです。昼間に日光を浴びると、メラトニンの原料となるセロトニンというホルモンが分泌されますが、体内時計が狂っていたり、日中の日光不足があると十分に分泌されません。
そのため睡眠の質を向上させるために昼間にしっかり日光を浴び、生活リズムを規則的にする、寝る前のスマートフォンやパソコンなどの画面や刺激を減らすことがは重要です。

②深部体温の調節が上手くできていない

深部体温は通常、朝から夕方に向けて高くなってゆき、夜から朝にかけて下がります。深部体温が大きく下がると眠くなります。「湯船にしっかり浸かるのは健康に良い」と言われる理由の一つはここにあります。夕食に身体が温まるものを食べ、お風呂に浸かって体温を上げると、入浴後放熱しようと血管が開いて副交感神経が優位になるため眠気を感じます。
一方で、生活リズムが整わず体温の調整がうまくいかないことは寝付きが悪くなる原因ともなります。

③寝具が身体に合っていない

自分に合わない枕を使うと、顎が上がっていびきの原因となったり、肩こりの原因になったりしてしまいます。また、厚着をしすぎたり、身体に合わないマットレスを使用することで寝返りがうちにくくなると、睡眠が妨げられてしまいます。また、寝室の音や光など睡眠環境も重要な因子となります。

④アルコールやカフェインの影響

アルコールは寝付きは良くなるように思えますが、睡眠が浅くなり途中で何度も起きてしまったり、寝起きが悪かったりと、質の良い睡眠はなりません。また、カフェインには覚醒作用があるため、コーヒーや緑茶、紅茶などを夜に飲むと眠りにくくなってしまいます。

睡眠の質を改善するには?

睡眠の質を高めるために、まずは次のことを実践してみましょう。

  1. 毎朝同じ時間に起床し、光を浴びる
  2. 日中にウォーキングなど運動をする
  3. 入浴をする
  4. 夜は部屋の照明を暗めにする
  5. 寝る前はスマートフォンやパソコンを控え、ヨガやアロマなど呼吸が深まりリラックスできる状態にする
  6. アルコールやカフェインの摂取量や摂取時間に注意する
  7. 寝具を見直す
  8. 睡眠時無呼吸症候群などの病気がないか調べる
  9. 体の痛みや不安・ストレスなどがある場合にはかかりつけ医や心療内科に相談する

睡眠時無呼吸症候群を疑ったら

サルスクリニックでは、睡眠ポリグラフ検査 (PSG) にて睡眠中の呼吸状態の評価を行うことで、睡眠時無呼吸症候群の検査が可能です。睡眠時間は十分取れているのに日中眠くなってしまう方や、睡眠の質を改善する方法を試してみても効果がないという方は、一度ご相談ください。
また、ここまで睡眠の質を高める方法を中心にご紹介してきましたが、睡眠の質を高める実践をしたからといって、睡眠時間が極端に短くて良いわけでは決してありません。先にご説明した通り、約90分間の「ノンレム睡眠→レム睡眠」のセットを一晩に4~5セット繰り返すことが理想ですから、例えば90分を5回繰り返すためには7時間半の睡眠時間が必要です。睡眠時間もしっかり確保し、睡眠の質も高めて、エネルギッシュな毎日を送りましょう!

フローティングバナー フローティングバナー