排便のしくみ
そもそもどのようにして食べ物が便に変わり体外へ排出されるのか、簡単にご説明します。
固形物を食べると、30秒~60秒ほどで胃に到達します。すると腸も活発に動き始めます。食べ物は胃液で溶かされてどろどろの液状となって小腸へ運ばれ、食べ物の栄養のほとんどが吸収されます。この時点で残っているものの大部分は不要物ですので、身体の外に捨ててしまわなければいけません。小腸から送り出されたどろどろのものは大腸で水分と一部のミネラルが吸収され、固形の便となります。成人で1.5メートルほどある大腸の中で、肛門へ続く最後の20センチメートルほどの部分を直腸といい、そこに一定量の便が溜まると脳に情報が伝わり、便意が起こります。
便秘とは?
「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」が「便秘」であると定義しています。つまり、排便回数や量が少ないせいで便が大腸内に不適切に滞っていたり、排出時に辛さを伴ったりする状態が便秘です。先ほどご説明しました排便の一連の流れのどこかに問題が生じると、便秘になってしまいます。また、長期間にわたる便秘は「慢性便秘症」と言われます。
便秘の診断
便秘の診断にはさまざまな定義がありますが、「慢性便秘症ガイドライン2017」では「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」が便秘、さらに便秘によって検査や治療を必要とする症状が現れた状態を便秘症と定義しています。つまり、単に食事量が少ないために便の量も減っているだけで腹痛や腹部膨満感(お腹の張り)、残便感などの不快な症状がなく、数日おきにでもすっきり排出できているのであれば便秘ではないということです。「毎日出ないから便秘かも」と、排便回数だけを理由に心配する必要はありません。
日本の便秘人口
厚生労働省が全国民を対象に実施した「令和元年 国民生活基礎調査」によると、便秘を訴える人は431万5千人、そのうち65歳以上が258万3千人と大半を占めており、高齢者は便秘になりやすいことが明確になっています。また、男性で便秘と回答したのは151万8千人なのに対して女性は279万7千人と、性別によって差があることもわかっています。
便秘の種類
便秘はその原因や症状などによって複数に分類されます。この分類の仕方も国や学会によって差がありますが、一般的には大きく「器質性便秘」と「機能性便秘」の2つに分かれます。
器質性便秘
大腸がん、虚血性大腸炎、腸捻転、癒着性イレウスなど腸の病気によって引き起こされる便秘です。腸に腫瘍ができたり炎症が起こったりすることで便が通過しにくくなってしまっているため、原因となる病気を治療する必要があります。
機能性便秘
大腸自体に問題はなく生活習慣が主な原因となっている便秘で、大きくは排便回数減少型と排便困難型に分かれます。
- 排便回数減少型
排便回数や排便量が減少して大腸に過剰な量の便が溜まり、腹部膨満感や腹痛が起こることがあります。
食事量や食物繊維摂取量が少ないせいで毎日排出するだけの便が溜まらず、腸への刺激も少ないため腸の動きが弱くなり、排便回数が減少するというパターンが多く見られます。長く腸にとどまることで便の水分量が低下して硬くなり、排便困難感も出てくることがあります。
また、大腸の機能が低下してぜん動運動(内容物を移動させるための腸の動き)が弱まり、なかなか直腸に便を送り込めなくなってしまうことで排便回数が減少するパターンもあります。こちらの原因としては神経疾患や内分泌疾患によって引き起こされる症候性のもの、向精神薬や抗コリン薬などの服用による薬剤性のものがあります。
- 排便困難型
便が硬くなりすぎているせいで排出しづらい場合と、直腸や肛門の機能が低下しているためにうまく排出できない場合があります。後者では、強くいきんでも直腸に一部の便が残ってしまい、残便感に悩まされることがあります。直腸のセンサーが鈍くなって便が溜まっても脳に情報が伝わらず便意を感じられないことや、加齢などによって便意を感じても直腸を十分に収縮できないこと、排便に必要な筋力が不足していてうまくいきめないことなどが要因です。
機能性便秘の原因
以上のように便秘は複数のタイプに分類できますが、ここでは生活習慣が原因で機能性便秘になっている場合の、より具体的な原因をご紹介します。
自律神経のバランスが崩れている
腸の働きをコントロールしているのは自律神経です。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」という正反対の作用を持つ2種類の神経があり、運動したり、気分が高揚したり、緊張したりと活動的なときには交感神経が、リラックスしているときには副交感神経が優位になります。
腸を含む消化器の働きは副交感神経が優位になったときに活性化し、交感神経が優位になると抑制されます。ストレスを受けたり睡眠不足であったりすると交感神経の働きが過剰になりすぎるため、腸の働きが悪くなり、便秘の原因となります。しかし反対に、副交感神経が過剰になることで腸がけいれんを起こして便秘になることもあるので、バランスが大事と言えます。
黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響
女性ホルモンのうち月経前や妊娠初期に多く分泌される黄体ホルモンは、身体に水分を溜め込むよう指令を出します。そのため便の中の水分も大腸で吸収されてしまい、便が硬くなり便秘になりやすくなります。また、黄体ホルモンはぜん動運動を抑制する作用があるとも言われています。男性と比べて女性の方が便秘になりやすい理由のひとつはホルモンにあると言えます。
筋力不足
若い男性に比べて、高齢者や女性が便秘になりやすい理由の一つです。腹筋などの筋力が弱いと排便時にいきむ力が不足して、排便が困難になります。また、運動は大腸へ刺激を与えてぜん動運動を起こしやすくなると言われていますので、運動不足も便秘につながります。
我慢を繰り返す
普通はある程度の量の便が直腸に下りてくると直腸の壁が引き伸ばされ、それを合図に脳へ信号が送られて便意を感じますが、便意の我慢を繰り返しているとこの信号の発信がされにくくなり排便困難型便秘の原因となります。
食物繊維不足
食べ物に含まれる栄養のほとんどは小腸で吸収されます。しかし食物繊維は消化・吸収されないまま大腸まで到達するため、便の状態に影響を与えます。そのため食物繊維の摂取不足は便秘の大きな原因となります。
とはいえ、やみくもに食物繊維を摂取すると、現時点で便秘の方はかえって便秘を悪化させてしまう可能性があります。食物繊維には不溶性と水溶性の2種類があり、不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らみ、便の体積を増します。一方、水溶性食物繊維は水に溶けて便を柔らかくします。たとえば既に重度の便秘で便が腸に停滞している人が不溶性食物繊維をたくさん摂取しすぎると、さらに便が増えて余計に苦しくなってしまいます。
腸内細菌のバランスが悪い
腸内細菌の多くは大腸にいて、そのうちビフィズス菌などの善玉菌は大腸の環境を整える作用があります。これらの数が少ないと便秘になりやすくなります。食物繊維は善玉菌のエサとなってこれらを増やす働きがあることもわかっているため、食物繊維不足は腸内細菌との関連性からみても、便通に悪影響を及ぼすと言えます。
食事量が少なすぎる
無理なダイエットなどで食事量が少なすぎると便秘になりやすくなります。食事の全体量が少ないと殆どの場合食物繊維の摂取量も不足しますし、入ってくる食べ物の量が少なすぎると腸が刺激されず、ぜん動運動が起こりづらくなります。
食事量が多すぎる
意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は食べ過ぎも便秘を引き起こします。空腹になるとモチリンというホルモンが分泌され、それがぜん動運動を起こします。間食が多く空腹の時間がなかったり、就寝の直前に食事をしてお腹がいっぱいの状態で寝てしまうと、本来寝ている間に多く分泌されるモチリンが分泌されないためぜん動運動が十分に起こらず、便秘になりやすくなります。
水分摂取量不足
成人の身体は約60%が水でできており、生きるためにはこの水分量を維持しなければなりません。飲み物や食べ物からの水分摂取量が足りていないと、排便のために水分を使う余裕がなくなり、本来便に含まれるべき水分まで腸で回収されてしまうため便が硬くなって便秘になりやすくなります。
生活習慣から便秘を解消したい方は、サルスクリニックへ!
便秘の原因が非常に多岐にわたることがおわかりいただけたでしょうか?水分を積極的に摂取する、食べてからすぐ寝ない、などはすぐにでも気をつけられそうなポイントですね。自律神経や食物繊維摂取は、バランスがとても大切です。「自律神経を整えるために早く寝たいけど眠れない」「水溶性食物繊維がどの食品に入っているかわからない」など困ったことがありましたら、ぜひサルスクリニックにご相談ください。管理栄養士による栄養指導プランもございますし、生活習慣の改善のみでは治らない頑固な便秘は、薬物療法が有効です。腹痛やお腹のハリなどの不快な症状のある方は、一度受診を検討してみてください。