慢性腎臓病(CKD)の食事療法~塩分~

この記事のポイント

  1. 腎臓は「尿」「血」「骨」に影響し、体の環境を正常に保つ働きがある
  2. 高血圧は腎臓への負担増加。腎臓の働きを守るためには「塩分制限」が重要
  3. 極端な塩分制限は避け、時間をかけて少しずつ無理のないペースで減塩を

慢性腎臓病の食事療法は主に、たんぱく質、エネルギー、カリウム・リン、塩分の摂取調整を行います。今回は「塩分」に注目して解説していきます。

「たんぱく質・エネルギー」、「カリウム・リン」については以下の記事で詳しくご紹介しています。



腎臓と塩分の関係を理解するには、まず腎臓のはたらきを知る必要があります。

腎臓のはたらき

  1. 尿をつくる
    腎臓に流れる血液は、糸球体(糸くずのような塊の毛細血管)で、血球やたんぱく質等の大きな物質と、たんぱく質より小さな物質に分けられ、後者は水分とともにろ過されます。
    ろ過された水分やミネラル、栄養素(ブドウ糖やアミノ酸など)は、必要な量だけ尿細管で再吸収され血液に戻りますが、老廃物や過剰な水分・物質は、尿として排出されます。
  2. 体内環境を一定のバランスに保つ
    尿細管はナトリウム、カリウム、カルシウム、リン等の体に必要な成分を再吸収し、不要なものを尿中へ分泌して排泄しています。これにより、体内のミネラルバランスを調整し、血液を弱アルカリ性に保っています。
  3. 血圧を調整する
    腎臓のろ過機能が円滑に働くには、血液の流れが一定に保たれている必要があります。腎臓では血液の流れが悪くなるとそれを感知し、レニンという酵素が分泌されます。
    分泌されたレニンと血液中のたんぱく質が反応することで生成されるアンジオテンシンIIという物質によって、血管の収縮がおこり血圧を上昇させます。腎臓はレニンの分泌量を増減させることにより血圧を調整します。
  4. 赤血球数のコントロール
    腎臓はエリスロポエチンというホルモンを分泌しています。エリスロポエチンは骨髄の造血幹細胞に働きかけ、赤血球の数を調整します。腎機能が低下するとエリスロポエチンの分泌が少なくなり、赤血球数も減少するため、貧血を引き起こしやすくなります。
  5. カルシウムの吸収を助ける
    腎臓はビタミンDを活性化させます。ビタミンDは腸管でのカルシウム吸収と腎臓でのカルシウム再吸収を促進し、骨の形成を助けます。腎機能が低下すると、ビタミンDを活性化できず、骨がもろくなってしまいます。

腎臓と高血圧

塩分を摂りすぎると、血液中のナトリウム濃度が高くなります。ナトリウム濃度が高くなると、濃度を下げるために水をたくさん飲むよう脳から指令が出ます。これが「のどが渇いた」という状況です。
そして、水分を摂ると血管に流れる血液量が増え、血圧も高くなります。つまり、食塩を摂りすぎると、体内のナトリウムと水分の量を調整するために血液量が増え、高血圧になってしまうということです。高血圧状態が続くと、腎臓の血管は細動脈硬化が生じ、血管の内腔が狭くなることで血液量が減少します。

豊富な血流を必要とする糸球体で血液の流れが悪くなると、糸球体は徐々に硬化し、腎機能が低下します。
そして、前述の通り、腎臓の血流量が減ると、血流量を保つためにレニンの分泌が必要となります。レニンの分泌によって、血圧上昇や腎臓への負担増加につながり、ますます腎機能が低下し悪循環となってしまいます。したがって、腎臓を守るにはこの悪循環を断ち切る必要があります。そのために重要なことが塩分制限です。

塩分はどれくらい制限すれば良いの?

末期腎不全や心血管疾患を予防するためには、慢性腎臓病の ステージにかかわらず、食塩摂取量3~6 g/日未満(尿中ナトリウム排泄量 100mmol/日前後)に抑えることが推奨されています。
しかし、塩分を極端に制限してしまうと、低ナトリウム血症に陥る可能性が高くなります。血清ナトリウム値と総死亡のリスクとの間にはU字型の関係があり、低ナトリウム血症では高ナトリウム血症と同様に総死亡のリスクが増加することが報告されています。
また、1型糖尿病では尿中ナトリウム排泄量が概ね50mmol/日(食塩換算で2.9g/日)より少ないと死亡率が上昇するという報告もあり、3g/日未満の過度の塩分制限は推奨されていません。

塩分制限のポイント

  1. 食品の栄養成分表示の食塩相当量を確認する
    加工食品は、栄養成分表示が義務付けられており、減塩推奨の観点から「食塩相当量」も表示されるようになりました。普段食べている食品にはどれくらいの塩分が含まれているのか、確認することから始めてみましょう。
    例えばドレッシング1つとっても、フレンチドレッシングと和風ドレッシングでは塩分量が異なります。また、種類は同じでも、販売元や製造元が異なる場合塩分量にも違いがあるため、比較して選ぶことをおすすめします。ただし、栄養成分表示は100gあたり、1袋あたり、3本あたり、200mLあたり等、商品によって食品単位が異なるため注意が必要です。
  2. 少しずつ減塩する
    令和元年の国民健康・栄養調査では、日本人の食塩摂取量の平均値は10.1gでした。たとえば、今まで食塩10g/日を摂取していた方がいきなり6g/日を目指してしまうと、物足りなさや強いストレスを感じ、すぐにドロップアウトしてしまう可能性が高くなります。また、過度な塩分制限によるストレスは血圧の上昇につながってしまうかもしれません。

    ここで、オーストラリアで行われた減塩の研究を紹介します。
    通常の食塩含有量をもつパンを食べるグループと、毎週5%ずつ減塩を行い最終的に25%まで減塩したパンを食べるグループに分け、それぞれどちらのパンを食べているのか知らせずに6週間にわたって食べ続けてもらい、味の感じ方の変化について調べる、という実験です。6週間後、最終的に25%まで減塩したパンを食べていたグループは、はじめに食べたパンと比べて味の違いを感じなかった、つまり、味の変化に気が付かなかったという結果でした。
    この結果より、少しずつ減塩を行えば味の変化に気づきにくく、減塩によるストレスの軽減が期待できます。

    実際にイギリスでは、「時間をかけて少しずつ塩分を減らしていく」という方法で減塩に成功しています。
    イギリスでは高血圧が重要な健康課題となっていることから、2003(平成15)年より国民運動として減塩活動が展開されました。
    国が加工食品の食塩含有量を40%低減するという目標を設定し、企業は徐々に食塩を減らしていき、最終的にさまざまな食品の食塩含有量を目標の数値まで減らすことに成功しました。そして、国民が無意識のうちに減塩した結果、24時間尿中ナトリウム量は8年で15%ほどの減少が認められ(食塩相当量で2003年:9.5g/日 → 2011年:8.1g/日の減少)、虚血性心疾患と脳卒中の10万人当たり死亡者数も8年で40%ほど減少しました。つまり、国民は減塩していることに気づかずに、減塩に成功していたのです。
    以上のことから、少しずつの減塩、まずは-1g/日(-0.3g/食)程度の減塩から始めてみてはいかがでしょうか。
    たとえば、いつも何気なく使用している調味料の量を少しだけ減らすことも減塩の大きな一歩です。
  3. 薬味や香辛料、酸味を効かせる
    唐辛子やわさび(チューブ除く)、にんにく、生姜等の薬味や香辛料は塩分をほとんど含んでいませんが、味にメリハリがつき、塩分は控えめでもおいしく食べることができます。
    また、酢には減塩効果や降圧効果が認められています。
  4. 料理にメリハリをつける
    1食の中で平均的に味付けをすると、ぼんやりとした味付けになり、物足りなさを感じるかもしれません。たとえば、主菜に塩分を重点的に使い、副菜は薄味や無塩でも食べられるものを組み合わせると、満足感を得られやすくなります。

ここで紹介したさまざまな減塩方法は一部にすぎません。減塩方法は沢山あり、患者さん一人ひとりに合う方法、合わない方法もあることでしょう。また、減塩は一時的ではなく、生涯取り組んでいかなければなりません。一人で悩まずに、ぜひ医師、管理栄養士にご相談ください。

サルスクリニックにはいつも管理栄養士がいます

サルスクリニックには医師や看護師だけでなく、管理栄養士が常駐しています。
食生活だけでなく、ライフスタイルやご職業などの背景を踏まえ、実行できる内容を患者さんと共に考え、その継続をサポートします。

【参考文献】
監修 日本腎臓学会 編集 腎疾患重症化予防実践事業 生活・食事指導マニュアル改訂委員会 『医師・コメディカルのための慢性腎臓病 生活・食事指導マニュアル』

日本病態栄養学会編集『病態栄養専門管理栄養士のための病態栄養ガイドブック 改定第7版』

中外製薬株式会社『腎臓が気になりだしたら』

女子栄養大学出版部『改訂版 塩分、たんぱく質、カリウム、リンがひと目でわかる 腎臓病の食品早わかり』

医歯薬出版株式会社『臨床栄養』別冊 栄養指導・管理のためのスキルアップシリーズ
CKD(慢性腎臓病)の最新食事療法のなぜに答える 基礎編・応用編

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