ストレスとは?
「仕事でストレスを抱えている」「人間関係のストレスが辛い」などと言うときの「ストレス」は、もともと工学や物理学において外から力が加えられたときに物体に生じる歪みを意味していた「ストレス」という語を、医学の領域に流用してできた用語です。つまり、外部から何らかの刺激が加えられ、その際に身体の中に生じる歪みのことを「ストレス」と言います。
歪み、つまり通常とは違う状態になることがストレスですので、必ずしも一般的にいう「悪い出来事」ばかりがストレスではありません。「社会再適応評価尺度」という人間にとって生活上の、どの出来事がどれくらいのストレスになるのかを数値化したものがあります。最もストレスが強いものを100として、たとえば以下のようなものが挙げられています。
- 配偶者の死 100
- 離婚 73
- 自分の怪我や病気 53
- 結婚 50
- 解雇 47
- 優れた業績を上げる 28
- 上司とのトラブル 23
- 住居の変化 20
個人差があるため一概にはいえませんが、「結婚」「優れた業績を上げる」のような一般的にはポジティブな出来事として考えられることにも、ストレスは発生するとされています。これは先ほどご説明した通り「ストレス」とは外部からの刺激によって、普段とは違う身体の反応が起こることを意味するからです。嬉しい出来事でドキドキする、というのも普段とは違う状態と言えます。
「歪み」を防ぐ、ホメオスタシス
では具体的に「歪み」「普段とは違う状態」とはどのようなことでしょうか。私たちの身体には、常に状態を一定に保とうとする「ホメオスタシス(生体恒常性)」というしくみが備わっています。たとえば暑いときには外気の温度につられて体温が上がってしまわないように汗をかきます。これは暑さというストレス要因で身体が普段と違う状態になってしまわないよう、ホメオスタシスのしくみが働いて、無意識のうちに身体を守っているということです。他にも目には見えませんが、身体の中では血圧や血糖、心拍数を一定に保ったり、風邪を引かないように病原菌などを防いだりすることで、身体は健康な状態に保たれているのです。
ホメオスタシスは、
- 交感神経と副交感神経で身体を調整する自律神経系
- ホルモンを分泌して血流で全身に運ぶ内分泌系
- 異物の侵入を防いだり排除したりする免疫系
の3つが働くことによって成り立っています。
自律神経系
自律神経は、心臓の収縮を調整したり、胃・小腸・大腸など消化器の働きをコントロールしたりと身体の様々な機能を調整します。「交感神経」と「副交感神経」という正反対の作用を持つ2種類の神経があり、簡単に言うと、運動したり、気分が高揚したり、緊張したりと活動的なときには交感神経が、リラックスしているときには副交感神経が優位になります。交感神経が優位なときには心臓の働きが活発になるため心拍数や血圧が上がり、副交感神経が優位なときには下がります。消化器に関しては反対に、副交感神経が優位になったときは働きが活性化し、交感神経が優位になると抑制されます。この2種類の自律神経のバランスを良い状態に保てていることが、心身の健康にとって大切なポイントの一つです。
ストレスを受けると交感神経の働きが活発になります。すると、心臓の動きが活発になりすぎて高血圧になったり、消化器の機能が低下して粘膜防御機能が低下した胃を胃酸が刺激して胃痛が起こったりと、様々な不調をきたします。これが長く続くと高血圧症・胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの病気に発展してしまう可能性があります。
内分泌系
ホルモンは簡単に言えば、「糖を脂肪に変えて!」「眠気を誘発して!」「血圧を上げ
て!」などといった特定の変化をもたらす目的で細胞に情報を伝達する物質のことで、100以上の種類があります。脳の下垂体や甲状腺、副腎などでホルモンが分泌され、血液に乗って目的の場所まで移動します。
ストレスを受けると人間を含む動物の身体は、コルチゾール・アドレナリン・ノルアドレナリンというホルモンが分泌され血圧・血糖・心拍数を上げて危険に対抗しようとします。
アドレナリンやノルアドレナリンは非常に強い力を持っている反面、急性ストレスで一気に分泌され、過剰分は短時間で消失します。
一方コルチゾールはすぐには減少しない上、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌を抑える作用もあるため、コルチゾールの濃度が高すぎる状態が続くと高血圧・高血糖・免疫力・集中力の低下・不安・うつなど、心身ともに様々な問題を引き起こす可能性があります。
ホメオスタシスに関係する3つの系統、特に自律神経系と内分泌系は多くの場面で連動しており、たとえば副交感神経が活発になると「ガストリン」というホルモンが分泌されて胃液成分や胃粘膜の成長を促進するという連携があります。他にもストレスで分泌されるホルモンのアドレナリンやノルアドレナリンは交感神経の伝達物質としても機能するなど、自律神経とホルモンには深い関係があります。
免疫系
免疫とは、ウイルスや細菌などの病原体から身体を守るためのしくみです。血液やリンパ液内の白血球が病原体や異物を破壊することによって、身体が病気になるのを防いでくれます。白血球は顆粒球とリンパ球という2種類に大別できますが、ストレスにより交感神経が高まると、顆粒球の割合が増えてリンパ球が減少し、バランスが崩れて病気になりやすくなってしまいます。また、ストレスによって分泌されるコルチゾールが免疫機能を抑制してしまいます。
ストレスが引き起こす病気
ストレスは様々な病気を引き起こします。一般的にイメージが付きやすいのは、うつや適応障害、パニック障害などいわゆる「心の病気」かもしれませんね。しかしここまでの説明でお気付きかと思いますが、それだけではありません。
ストレスが原因で直接的に影響を受けやすい臓器は消化管です。交感神経が亢進することで胃腸の動きが低下し、嘔吐や便秘・下痢、胃炎や胃潰瘍、逆流性食道炎などが発症しやすくなります。そのほか、自律神経の乱れや免疫力の低下から感染症や頭痛・めまい、蕁麻疹や円形脱毛症、突発性難聴、高血圧や慢性疾患の増悪など多岐に及びます。
ストレスを解消しようとして暴飲暴食や喫煙など健康を害する行動を取ることで肥満や糖尿病、高血圧、腎臓病などが悪化しやすいという「認知的・行動的経路」というものもあります。
ストレスと心臓病について
ストレスにより交感神経が亢進すると、心拍数や血圧が上昇しやすくなることから心臓を養う冠動脈といわれる血管が収縮しやすくなり、血流と心筋への酸素供給が減少し、心臓病を悪化させることがわかっています。ある調査では、狭心症の患者さんはそうでない人と比べて、ストレスの多い出来事をより多く経験し、精神障害や心身症に悩まされ、幸福感が低い傾向にあることがわかったそうです。
また、冠動脈疾患のリスク上昇に、うつ・ストレス・社会的競争心の高さが関連しているという研究結果があります。特に家族歴がある(親族の中に冠動脈疾患の人がいる)人など他の要因によって冠動脈疾患の発症リスクがもともと高い人は、これらによってよりリスクが上昇する可能性が高いと示されています。
感情はどこで生まれる?
ストレスに対する抵抗力(ストレス耐性)は育ってきた環境や生まれ持った性質もあり、個人差があります。感じやすい人や、感じにくいけれど体が反応しやすい人もいます。このように、日常においてどのような行動を好むか、どのような感情を抱くかの傾向によって病気へのリスクが異なると言われていますが、同じストレス要因に対して、怒りや不安を感じる人と何も感じない人がいる等、受け取り方に個人差があるのはなぜでしょうか。
感情・情動の処理(好き・嫌い、快・不快の判断や恐怖・不安の感知)は、脳の中の扁桃体という部分で行われます。ストレスを受けるとこの扁桃体が活性化して、不安や恐怖、不快感などを感じ、自律神経を調整する視床下部が交感神経を優位にしたり、アドレナリンやノルアドレナリンが分泌されて、これまで述べてきたような身体の反応が出現します。つまり、扁桃体がストレス要因を外部から敏感に受け取るように発達している人は、ストレスによる身体の不調をきたしやすいということになります。
ストレスへの対策
ストレスへの対策としては、厚生労働省が次のように掲げています。
- ストレスに対する個人の対処能力を高めること
- 個人を取り巻く周囲のサポートを充実させること
- ストレスの少ない社会をつくること
このうち自分自身で取り組める「個人がストレスに対処する能力を高めること」の具体的な方法としては、
- ストレスの正しい知識を得る
- 健康的な、睡眠、運動、食習慣によって心身の健康を維持する
- 自分自身のストレスの状態を正確に理解する
- リラックスできるようになる
- ものごとを現実的で柔軟にとらえる
- 自分の感情や考えを上手に表現する
- 時間を有効に使ってゆとりをもつ
- 趣味や旅行などの気分転換をはかる
の8つが挙げられています。「リラックスできるようになる」「ものごとを現実的で柔軟にとらえる」「自分の感情や考えを上手に表現する」などはすぐに改善できるものではなさそうですが、睡眠・運動・食習慣などに気を配ることは、ちょっとした工夫と努力でできるかもしれませんね。自分ができそうなものから少しずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。
生活習慣のサポートは、サルスクリニックにおまかせを!
サルスクリニックでは管理栄養士による栄養指導など、現在病気がない人でも受けられる自由診療メニューもご用意しています。また、睡眠時無呼吸症候群の検査も行っていますので、夜中に何度も起きてしまうせいで睡眠不足になりストレスが溜まっている疑いのある方は、ぜひ一度検査にいらしてみてください。
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もちろん、既に心臓や血管に関連する症状が出てしまっている方や、今の自分の状態を知るために健康診断を受けたいという方も、お気軽にご相談ください。