セルフケアできる便秘・できない便秘
便秘はその原因によっていくつかに分類できます。そのうち生活習慣の改善などのセルフケアだけでは解決できないのは、次のものです。
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器質性便秘
大腸がん、虚血性大腸炎、腸捻転、癒着性イレウスなど腸の病気によって引き起こされる便秘です。腸に腫瘍ができたり炎症が起こったりすることで便が通過しにくい状態になっています。生活習慣等の改善だけではこの便秘は解消できないので、医療機関で検査をして状態を把握し、医師の指示に従って原因となる病気を治療しましょう。
- 症候性便秘
腸自体に病気があるわけではないものの、神経疾患や内分泌疾患など、全身に影響をもたらす病気によって引き起こされる便秘です。甲状腺機能低下症、神経損傷、糖尿病、パーキンソン病などがホルモン分泌や神経系に異常をきたし、腸のぜん動運動が弱まって便秘になっているものです。こちらも、便秘の原因となっている病気を治療することが必要です。
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薬剤性便秘
向精神薬や抗コリン薬、咳止めなどを服用すると腸のぜん動運動が抑えられて、薬の副作用として便秘になることがあります。薬が原因で便秘になっていることが考えられる場合、まずは医師に相談しましょう。
今回は、上記を除く「機能性便秘」の解消の仕方について解説します。機能性便秘は生活習慣が主な原因となっているため、正しく改善できれば薬の力に頼らず便秘を解消できる可能性が十分にあります。
食習慣の改善
①食物繊維摂取量を増やす
食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食事中の難消化性分の総称」と定義されています。つまり、食物繊維以外の栄養はほとんど小腸で吸収されて大腸には届きませんが、食物繊維は分解・吸収されることなく大腸まで届くのです。よって、しっかり食事をしたつもりでも食物繊維の摂取量が少ないと便の体積を増せず腸が刺激されないため、便秘になりやすくなってしまいます。食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類があります。
- 不溶性食物繊維
腸で水分を吸収して便の体積を増やします。そのため特に、食べる量が少ないせいで腸への刺激が足りずぜん動運動が起こりにくくなっている人には大きな効果を発揮します。一方、別の理由で腸の機能が低下していて既に腸内に過剰な便が溜まっているタイプの便秘の人が不溶性食物繊維を取りすぎると、余計に苦しくなってしまうことがあるので注意しましょう。ライ麦・豆類・きのこ・ごぼう・蕎麦などに多く含まれます。
- 水溶性食物繊維
水に溶けて便を柔らかくして排出しやすい状態にしてくれます。腸内環境を整えてくれる善玉菌を増やす効果もあります。水溶性食物繊維を多く含むものとしては、熟した果物・海藻・こんにゃく・納豆・オクラなどが挙げられます。
厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人男性は一日あたり21g以上、女性は18g以上の食物繊維摂取が必要とされています。一方で現状の食物繊維摂取量の中央値は一日あたり13.7gと多くの人が不足していることになるので、便秘を解消するには意識的に摂取する必要がありそうです。
②善玉菌を増やす
腸内細菌には、腸内環境を整えてくれる善玉菌、ガスや有害物質を発生させ腸内環境を悪くする悪玉菌、通常は無害で悪玉菌が増殖するとそちらに加担しはじめる日和見菌の3種類が存在します。ここで注目すべきなのは、体内に100兆個以上もいるとされる腸内細菌のうち、7割が日和見菌であるということです。この日和見菌が悪玉菌の味方にならないようにするためにも、善玉菌の数を増やす必要があります。主な善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌が含まれるものを食べて悪玉菌の繁殖を抑え腸内環境を整えると、便秘は解消されやすくなります。
乳酸菌というとヨーグルトのイメージが強いかもしれませんが、他にも納豆・味噌・ぬか漬けなどの発酵食品には乳酸菌が含まれています。また、すでに腸内にいる乳酸菌のエサとなる食品を摂取することでも乳酸菌を増やすことができます。エサとなるのは先にご紹介した食物繊維やオリゴ糖です。オリゴ糖は、ごぼう・玉ねぎ・大豆・はちみつ・味噌などに多く含まれます。
③無理なダイエットをしない
食べる量が少ないと腸への刺激が足りずにぜん動運動が起こらず、便が長時間腸にとどまって硬くなってしまい、排出しづらくなってしまいます。特に「炭水化物を控える」といったダイエットをしている方は、要注意です。「炭水化物」は糖質と食物繊維の総称ですので、食品成分表示の「炭水化物」の量を気にしている方は、食物繊維が大幅に不足している可能性があります。「糖質だけを徹底的に控えれば肉はいくらでも食べてよい」というような偏った糖質制限ダイエットが流行した時期もありましたが、肉を過剰摂取すると悪玉菌が増えて腸内環境が悪化し、便秘を引き起こします。
④水分をしっかり摂取する
体内の水分が足りないと、本来便に含まれるはずの水分まで腸で回収されてしまい、便が固くなります。食事の時に限らずこまめに水分補給をしましょう。コーヒーや緑茶などはカフェインの利尿作用によって飲んでも排泄されやすいので、カフェインの入っていないものを飲むようにしましょう。飲むべき量は、体格や発汗量、運動量などによって異なるので一概には言えませんが、健康な成人では一日に1.2~2リットルくらいが目安です。
自律神経のバランスを整える
腸の働きをコントロールしている自律神経を整えることは、便秘の解消にとって大変重要です。自律神経には、活動的なときに優位になる交感神経とリラックスしているときに優位になる副交感神経の2つがあります。腸の働きは副交感神経が優位になったときに活性化するため、睡眠不足や精神的ストレスの多い状態が続いて交感神経が過剰にならないよう心がけることが大切です。特に、生活リズムを整えて質の高い睡眠を取ることは自律神経を良いバランスに保つために大変有効です。詳しくは別の記事でご紹介していますが、
✓毎朝同じ時間に起床し、光を浴びる
✓入浴をして身体を温める
✓小夜になったら部屋の照明を暗めにする
✓寝る前のスマートフォン・パソコンの使用を控える
などが重要となります。
また、便秘になった際に「今日こそ出さなければ!」と焦ってしまうと交感神経が優位になってより出づらくなってしまうため、焦りを感じ始めたら深呼吸などで気持ちを落ち着かせてみましょう。
運動をする
運動が便秘解消に有益であると言われる理由は複数あります。
- 腸が刺激される
運動によって腸が刺激されることでぜん動運動が起こりやすくなると言われています。そのためには特に腸腰筋を鍛えたりストレッチしたりすると有効です。
- 便を押し出す筋力を保つ
直腸に溜まった便を排便時にいきんで押し出すためにはお腹周りの筋力が必要です。高齢の方は特に、筋力不足が便秘の原因となることがあるので、無理のない範囲で運動に取り組んでみましょう。
- ストレス解消になる
適度な運動はストレス解消に繋がり、睡眠の質の向上にも影響するため、自律神経のバランスを整える効果があると言えます。
厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人男性は一日あたり21g以上、女性は18g以上の食物繊維摂取が必要とされています。一方で現状の食物繊維摂取量の中央値は一日あたり13.7gと多くの人が不足していることになるので、便秘を解消するには意識的に摂取する必要がありそうです。
排便習慣をつくる
排便に最も適しているタイミングは、朝食後です。就寝中は副交感神経が優位になり、腸が活発に働いて便を直腸(肛門に繋がる、腸の最後の部分)の近くまで移動させています。胃が刺激されるとすぐに腸も動き出すしくみになっているので、朝食を食べて胃を刺激するとスムーズに排便しやすくなります。このとき時間に追われて焦っていると交感神経が優位になって胃腸の働きを抑制してしまうので、朝に時間の余裕が持てるような生活スタイルをつくれるとよいでしょう。
また、便意の我慢を繰り返すと便が溜まったことを感知するセンサーが鈍くなって便意が起こりにくくなってしまうので、日中に便意が起こったときでもできるだけ我慢しない方が便秘の予防・解消のためには良いといえます。そうは言っても仕事や学校の関係でタイミングが難しいこともあると思いますので、やはり一番のおすすめは、朝、時間に余裕を持たせて排便する習慣をつくることです。
薬物療法
生活習慣の改善だけでは便秘がなかなか改善しない場合は薬の力を借りましょう。主に使われている内服薬の種類をいくつかご紹介します。
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浸透圧性下剤
腸内の液体の浸透圧を高めることで腸壁から腸内に水分を引き込み、便を柔らかくして排便しやすくします。酸化マグネシウムなどがこれにあたります。日本ではよく処方される薬ですが、腎機能が低下している場合や高齢の方が長期間服用すると高マグネシウム血症になるリスクがあります。2018年に日本で慢性便秘症の治療薬として承認されたポリエチレングリコール製剤も浸透圧性下剤で、海外では最も多く使われています。
- 膨張性下剤
大腸で水分を含んで膨らみ、便の量を増やします。便が柔らかくなり、ぜん動運動も誘発されます。便の体積が増えるため腹部膨満感は出やすいですが、それ以外の副作用は少なく、食物繊維摂取不足の方には有効性が高い薬です。内服時に多めの水と一緒に飲む必要があります。
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刺激性下剤
大腸の腸内細菌によって分解されて作られた物質に腸管を刺激させるなど、強制的に刺激を与えることでぜん動運動を起こし、排便を促す薬です。あくまでも一時的に使うものであり、常用すると腸が自ら動かなくなって、薬をのまないと排便できない状態になってしまいます。酷くなると便に対して直腸が反応しない「結腸無力症」になることもあります。米国消化器病学会が定めるガイドラインでは、生活習慣の改善と浸透圧性下剤の服用が治療の基本であり、必要時にのみ刺激性下剤を使うことを勧めています。
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上皮機能変容薬
日本では2012年に32年ぶりに全く新しいしくみの便秘薬として登場したものです。小腸の細胞膜に働きかけて水分を分泌させ、便を柔らかくします。日本消化器外科学会関連研究会の『慢性便秘症診療ガイドライン2017』では、推奨の強さ・エビデンスレベルともにトップクラスの評価を付けられています。慢性機能性便秘症だけではなく、パーキンソン病、糖尿病等に伴う症候性便秘や薬剤性便秘に対しても有用性が高いという報告もあります。若い人や女性では嘔気の副作用が出現することがあり、妊婦には使用できないので注意が必要です。
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胆汁酸トランスポーター阻害薬
2018年に承認された、新しい慢性便秘症治療薬です。本来胆汁酸は小腸で95%が吸収されてしまい、残りの5%が大腸に届いて水分を分泌させますが、この薬は小腸での吸収を妨げ、大腸まで届く胆汁酸を増加させます。それにより、便が柔らかく排出しやすくなります。
漢方薬
便秘に有効であるとされる漢方薬も多数存在します。漢方薬に含まれる生薬のうち、便秘に直接効果があるのは、大黄・麻子仁・芒硝などです。このうち大黄は刺激性下剤にあたるため、長期的な服用には向きません。漢方薬は様々な生薬の組み合わせパターンがあり、合う・合わないの見極めが難しいほか、飲み合わせによっては同じ成分が重複して過剰摂取となり副作用が出ることもありますので、自己判断で市販品を購入するよりも、医療機関で相談することをおすすめします。
便秘に用いられる漢方薬として、具体的には次のようなものがあります。
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大黄甘草湯
大黄の含有量が多く、刺激性のある下剤です。漢方薬の中では便秘に対して最もよく処方されます。
- 麻子仁丸
大黄の他、脂肪油が含まれる麻子仁が入っていることで、便を柔らかくする効果が期待できます。ころころした乾燥便の方によく使われます。
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桂枝加芍薬大黄湯
大黄の他、痛みをやわらげる芍薬、体をあたためる生姜などが含まれるため、腹部膨満感や腹痛を伴う便秘に使われます。
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桃核承気湯
大黄と芒硝が含まれ、刺激性下剤と浸透圧性下剤の作用があります。便秘の他にのぼせや月経不順などを訴える女性に処方されることが多いです。
- 大建中湯
大黄を含まずマイルドに腸の働きを整える漢方薬です。腹痛や腹部膨満感のある便秘に効果が期待できます。直腸感覚が改善されて便意が感じやすくなるため、感覚の衰えが原因で便秘となっている高齢の方などにも効果を発揮します。
「本当に機能性便秘?」「もっと具体的な食物繊維摂取方法が知りたい!」
今回は生活習慣が原因で引き起こされる機能性便秘についての改善方法をお伝えしました。器質性便秘や症候性便秘、薬剤性便秘の場合は対処法が異なりますので、疑わしい場合は医療機関を受診しましょう。サルスクリニックでも、腹部超音波検査や便潜血検査、甲状腺の検査などが実施できますので、ぜひご相談ください。
生活習慣が原因で便秘となっている場合も、終夜睡眠ポリグラフィ検査で質の良い睡眠ができているか調べることや、管理栄養士による栄養指導で食習慣を無理なく改善することもできます。もちろん、状態によってはお薬の処方も可能です。緊張して交感神経が高まると便秘がひどくなってしまいますので、ぜひリラックスしておこしくださいね!