血液透析と腹膜透析の食事療法の違い

この記事のポイント

  1. 血液透析の食事療法は、塩分・水分の過剰摂取を避け、カリウム制限が必要となる
  2. 腹膜透析の食事療法は、塩分の過剰摂取を避け、エネルギー摂取量の調節が必要となる
  3. 透析方法による食事療法の違いや必要なエネルギー量、制限すべき栄養素などには個人差がある

透析とは、弱った腎臓の代わりに血液から尿毒素と呼ばれる老廃物や余分な水分を取り除き血液をきれいにする方法です。透析治療には「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」の2種類があります。
こちらのコラムを読んで、透析方法による食事療法の違いを確認してみましょう。

透析方法(腹膜透析)について詳しくはこちらをご覧ください。

1日の適正なエネルギー摂取量

1日の適正なエネルギー摂取量は血液透析・腹膜透析共通して、標準体重1kgあたり30~35kcal 程度です。

〈例〉身長160cmの方の場合(標準体重:1.6m×1.6m×22=56.3kg)
必要なエネルギー量:56.3kg×30~35(kcal)≒1,700~2,000kcal

※腹膜透析における注意点
注意1:腹膜透析では、1日75g〜100g(300〜400kcal。ご飯大盛り1杯程度または6枚切り食パン2枚程度)のブドウ糖が、透析液から腹膜を通して吸収されます。このことを考慮して1日の食事量を割り出します。
注意2:透析液によって含まれるブドウ糖の濃度に違いがあるため、使用する透析液によりブドウ糖の吸収量は異なります。また、腹膜の状態によっても吸収量は異なります。 

総必要エネルギー量 - 腹膜吸収エネルギー量 = 食事からとるエネルギー量

1日の適正な蛋白質摂取量

1日の適正な蛋白質摂取量は、血液透析・腹膜透析共通して、標準体重1kgあたり0.9~1.2g 程度です。

〈例〉身長160cmの方の場合(標準体重:1.6m×1.6m×22=56.3kg)
56.3kg×0.9~1.2g≒50g~70g

※腹膜透析における注意点
注意:腹膜透析では、排液中に1日5〜10g程度の蛋白質(卵1個または赤身肉50g程度)が漏出するため、食事で適切に摂取する必要があります。

塩分制限

快適に透析を行うためには、血液透析であっても腹膜透析であっても塩分をとりすぎないことが大切です。塩分の過剰摂取は、喉の渇きやむくみ、血圧上昇につながります。

血液透析の場合

塩分の過剰摂取は、のどの渇きから水分の過剰摂取にもつながります。
その結果、体内に余分な水分がたまり、血液透析で除水する量が増加することによって、透析中の血圧が下がってしまい体調が悪くなることがあります。また、血液中の水分量が増えることから、高血圧を引き起こす原因にもなるため注意が必要です。

腹膜透析の場合

塩分の過剰摂取は、体内に水分を貯留させるため除水量の減少につながります。除水量を増やすためには、透析液(ブドウ糖)の濃度を高くする必要があり、その結果、ブドウ糖の吸収量が増え、腹膜への負担がさらに大きくなってしまうため、塩分を過剰に摂取しないことが大切です。

水分摂取量の目安

水分をとりすぎてしまうと、体内に余分な水分がたまり、除水量を増やすために体に負担をかけてしまいます。塩分と同様、血液透析でも腹膜透析でも、水分の過剰摂取には注意が必要です。

血液透析の場合

血液透析を始めると、多くの方は、徐々に尿量が減少し、無尿になるなどの変化により、体内に水分がたまりやすくなります。透析での除水量を増やして、体に負担がかからないように、水分摂取量はできるだけ少なくします。

1日の水分摂取量の目安

体から出る水分である「尿」や「汗」の量などを考慮し、水分摂取量を考える必要があります。

 体から出る水分の目安

  • 尿:0~1500ml
  • 大便:100ml
  • 不感蒸泄(※2):900ml
  • 汗:安静時200~400ml

 体に入る水分の目安

  • 食事からの水分:1000~1200ml
  • 代謝水(※1):200~350ml
  • 飲水:調節の必要あり

腹膜透析の場合

除水量+尿量+不感蒸泄(※2)+発汗量により摂取量[食事からの水分+飲水]を調節します。
※1 代謝水:食べ物が体内で燃えたときにできる水分のこと
※2 不感蒸泄:呼気や皮膚から蒸発する水分のこと

カリウムの摂取量

カリウムは体に多すぎても少なすぎても問題のある成分です。定期的に検査値を確認し、摂取量を個々に合わせる必要があります。

血液透析の場合

制限あり(2000mg/日以下)
尿が充分に出なくなったり無尿になると、カリウムが細胞内や血液中に溜まりやすくなり、高カリウム血症を引き起こしやすくなります。そのため、カリウム制限が必要です。
カリウムはさまざまな食品に含まれているため、カリウムを多く含む食品をとりすぎないよう工夫が必要です。(バナナやメロンなどの果物、100%ジュース類、ドライフルーツ、芋類、豆類、肉類、魚類にはカリウムが多く含まれます。)

腹膜透析の場合

制限なし
腹膜透析の場合は、毎日少しずつ透析液へ除去されていくため、特に制限する必要はありません。

リンのコントロール

血液透析、腹膜透析に共通して、リンの摂取量を減らすために蛋白質の摂取量を過度に減らすと、栄養状態だけでなく筋肉量や筋力の低下が問題となります。十分な蛋白質を摂取し、定期的な血液検査で血清リン値を確認しましょう。高リン血症と判断された場合は、食事からの過剰なリン摂取を控えるようにしましょう。
また、リンには食品自体に含まれる有機リンと、食品添加物に含まれる無機リン(リン酸塩)があります。無機リンは有機リンに比べて腸から吸収されやすく(無機リン:約90%、有機リン:10~40%)、高リン血症を起こしやすいため、ウインナーやハムなどの加工食品、ちくわやはんぺんなどの練り製品、ファストフードや即席麺など、食品添加物を含む食品は、できるだけ控えることが望ましいです。


血液透析と腹膜透析の栄養状態の比較

ここからは、私が透析医学会で発表した内容を紹介します。
血液透析(HD)と腹膜透析(CAPD)の透析方法の違いにより、栄養状態にどのような影響を及ぼすのか比較検討をしました。

方法

  • 血液透析患者と腹膜透析患者28名ずつ
  • 性、年齢、原疾患、透析歴を一致させて選択(PD:血液透析、CAPD:腹膜透析)
    性(男性20名、女性8名)、平均年齢(HD:55.5歳、CAPD:56歳)、原疾患(非糖尿病:23名、糖尿病:5名)、透析期間(HD:48.3ヶ月、CAPD:45.3ヶ月)
  • 食事記録(写真付き)と食生活調査
  • 採血

結果

  • エネルギー摂取量:CAPD群においては、透析液からのブドウ糖吸収量を含めた糖質摂取量が多くなるため、HD群と比較しCAPD群のほうがエネルギー摂取量はやや多い傾向にあった。
  • 蛋白質摂取量は両群とも食事摂取基準をほぼ満たしていたが、腹膜透析では排液中に蛋白質が漏出されてしまうため、HD群と比較すると、CAPD群のほうが血液検査において血清総蛋白(TP)とアルブミン値(Alb)が有意に低かった。逆に、中性脂肪(TG)は高値の傾向を示した。これは、腹膜透析ではブドウ糖が常に腹膜から吸収されている影響と考えられる。

結論

透析の方法に合わせた食事療法が必要であり、腹膜透析(CAPD)においては、栄養状態が悪くならないよう、失われる蛋白質の分も補い適切な蛋白質の摂取と糖質を抑えた食事が必要であるということが、この研究では明らかになった。

透析生活の食事管理について

このように、透析方法の違いで食事療法も異なります。また、必要なエネルギー量や制限すべき栄養素などには個人差があります。
質の良い透析生活を送るには食事管理はとても重要です。でも、食事は人生の楽しみの一つでもあると思います。
食生活について悩みがあれば、是非、管理栄養士にご相談ください。


サルスクリニックには管理栄養士がいます

サルスクリニックには医師や看護師だけでなく、管理栄養士が常駐しています。
私たち管理栄養士が栄養指導で心がけていることは、無理しすぎず、続けられる提案をすることです。食生活だけでなく、ライフスタイルや職業などの背景を踏まえ、実行できる内容を患者さんと共に考え、その継続をサポートします。生活習慣病について栄養指導を受けたい方は、一度当院を受診し、ご相談ください。

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