尿路結石とは
尿の通り道である、腎臓・尿管・膀胱・尿道のどこかに、特定の成分が集まってできた塊である「結石」が停留している状態を、尿路結石症と言います。尿路結石の症状は、結石のある場所と結石の成分によって、無症状のものから「世界三大激痛」と言われるまでの痛みを伴うものまで様々です。尿路結石の種類については以前ご紹介しましたので詳しくはそちらをご参照ください。今回は、なぜ尿路結石ができてしまうのかということに焦点を当ててご説明いたします。
食生活の偏り
尿路結石の原因の多くを占めるのが、食生活の偏りです。どのような食生活が問題なのでしょうか。
①カルシウム不足
尿路結石全体の約8割は、シュウ酸とカルシウムが結合したシュウ酸カルシウム結石であると言われています。「シュウ酸とカルシウムの摂取量を減らせば良いのでは?」と思いませんか?実はこれは間違いで、むしろカルシウムが不足すると、シュウ酸カルシウム結石ができやすくなってしまうことがわかっています。シュウ酸とカルシウムは尿の中で結合すると結石となってしまうことがありますが、実はその前段階、腸の中でも結合するチャンスがあるのです。ここでシュウ酸とカルシウムが結合すると便として排泄されるため、結石の心配はなくなります。つまり、カルシウムの摂取量を増やすことで、できるだけシュウ酸を便として排出して尿まで届かないようにしようということです。逆にカルシウムの摂取量が少ない場合、カルシウムは他の物質とも結合しやすい性質があるため、多くのシュウ酸がカルシウムと結合できないまま尿中に流れていってしまいます。そこへたまたま他の物質とも結合し損ねたカルシウムが尿中に入ってくると、尿中でシュウ酸とカルシウムが結合してしまい、結石となる可能性が出てくるのです。
②シュウ酸の過剰摂取
シュウ酸を食事から多く摂取しすぎると、結石の原因となります。とは言え先にも述べました通り、シュウ酸は様々な食品に含まれています。シュウ酸を多く含むほうれん草やたけのこは茹でることでシュウ酸が減るため、量が多い場合はなるべく湯がいて食べていただくことをおすすめいたします。
③水分不足
水分摂取量が少ないと尿量も少なくなり、尿が濃くなります。すると、カルシウムやシュウ酸などの結石生成物質の濃度が高くなり、結石ができやすくなります。腎結石を発症した方の1日の尿量は、腎結石を発症していない人たちと比べて250~350mL少なかったという報告もあります。適切な水分摂取がなければ尿路結石のリスクは増加すると言えます。1日に2リットル以上の水を飲むと良いとも言われていますが、個人の体格や生活スタイルにもよりますので、医療機関で水分不足を指摘された場合には医師と相談して目標摂取量を決めた方が良いかもしれませんね。
④動物性たんぱく質の過剰摂取
肉や乳製品など動物性たんぱく質を過剰に摂取すると、尿中に排出されるカルシウムの量が増えてしまうことがわかっています。さらに、乳製品以外の動物性たんぱく質は尿中のクエン酸量を減らします。クエン酸にはシュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムが結石となるのを防ぐ働きがあるため、減ってしまうとカルシウム結石ができやすくなります。
⑤動物性脂肪の過剰摂取
動物性タンパク質を摂取すると大抵の場合は動物性の脂肪も摂取することになります。脂肪は体内で脂肪酸に分解されて腸に届きます。脂肪酸はカルシウムと結合しやすい性質があるため、結合して便として排泄されます。すると、腸内でカルシウムと結合すれば無害であったはずのシュウ酸は、脂肪酸にカルシウムを奪われてしまう形となり、尿の中へ流れていくしかなくなって、結石のリスクが高まります。
⑥プリン体の過剰摂取
プリン体とは尿酸のもとになる物質です。尿酸は通常、尿とともに排出されますが、尿が酸性に傾いていると溶けにくい性質があるため、排出されずに尿酸結石となってしまうことがあります。プリン体を多く含むものは、レバーなどの動物の内蔵や魚介類、そしてアルコール飲料です。プリン体は食品から取り込まれるだけでなく体内でつくられてもいます。アルコール飲料はそれ自体にプリン体を多く含む上、体内でのプリン体生成を促進する作用と、腎臓での尿酸排泄を低下させる作用もあります。そのため多量の尿酸を長い間尿路に停留させることとなり、尿酸結石の生成に繋がります。
⑦塩分の過剰摂取
塩分を多く摂ると、尿中へのカルシウム排出量が増加すること、さらに結石を防ぐ効果があるクエン酸量の尿中の量を減少させることがわかっています。
⑧糖分の過剰摂取
糖分も尿中へのカルシウム排出量を増加させます。そして糖類の中でも特に、果物や蜂蜜、清涼飲料水などに多く含まれる「果糖」が結石に関して多くの問題を引き起こします。果糖を摂りすぎると、尿中へのカルシウム、シュウ酸、尿酸の排出が増加する上、尿が酸性に傾きます。尿酸結石は尿が酸性になると生成されやすくなるため、果糖の過剰摂取には注意が必要です。
遺伝的要因
尿路結石はその成分によって、カルシウム結石、尿酸結石、リン酸マグネシウムアンモニウム結石など、様々な種類に分けられます。そのうちシスチン結石やキサンチン結石といったものに関しては、明らかな遺伝性が認められています。
シスチン結石はシスチン尿症という遺伝性疾患により、生まれつきアミノ酸の代謝異常があるために引き起こされます。キサンチン結石も、先天的なプリン体の代謝異常によって尿中にキサンチンが大量に排泄されるキサンチン尿症という遺伝性疾患が原因です。
一方、尿路結石の大部分を占めるカルシウム結石についてははっきりとした遺伝性は明らかになっていません。しかし家族内では生活環境が似ているため、食生活などに同じ問題を抱えていれば、親も子も同様に結石が発生するということは考えられます。また、親にカルシウム結石の病歴がある場合、二卵性双生児よりも一卵性双生児の方が結石となる可能性が高いという調査結果も報告されています。明確には解明されていないものの、カルシウム結石に関しても遺伝の関与はあるというのが通説です。
薬剤の影響
飲んでいる薬によって尿路結石ができやすくなる場合があります。抗てんかん剤であるトピラマートや、緑内障の治療などに用いられるアセタゾラミドなどは、尿の成分を変化させる代謝異常を誘発することでリン酸カルシウム結石ができやすくなります。骨粗鬆症などの治療に使われる活性型ビタミンD3は尿中にカルシウムを多く排出させる上、併用されることの多いカルシウム製剤によっても尿中のカルシウムが増えるため、カルシウム結石ができやすくなります。
また、薬の成分そのものが蓄積されて結石となるものもあります。胃炎や胃潰瘍などの治療薬であるケイ酸アルミン酸マグネシウムを長期間大量に服用すると、ケイ素結石を招くことがあります。抗HIV薬のひとつであるインジナビルも、インジナビル結石となることがあります。
痛風や高尿酸血症などの治療薬、プロベネシド、ブコローム、ベンズブロマロンも、血液中の尿酸を尿中に排出して尿内の尿酸が増えるため尿酸結石ができやすくなります。
尿のpHの異常
水溶液の性質(酸性なのかアルカリ性なのかなど)を表す単位であるpHは、pH7.0を中性とし、これより低いほど酸性が強く、高いほどアルカリ性が強いことを示します。0~14までの数値で表現され、尿は通常pH6.0程度の弱酸性ですが、食事内容によって変化します。pHが常に5.5以下であると尿酸結石ができやすくなり、pH6.5以上になるとリン酸カルシウム結石ができやすくなります。
女性ホルモンの減少
尿路結石は男性に多い疾患ですが、女性は閉経後、発症率が一気に高まります。これは女性ホルモンの分泌が急に減少することに依ります。女性ホルモンの一つであるエストロゲンは骨の新陳代謝(古いものが新しいものに入れ替わること)を活発にする働きを持っています。エストロゲンの分泌が急に減少すると新陳代謝のバランスが崩れて骨密度が低下し、骨粗鬆症のリスクが高まります。骨密度が低下する、つまり骨がスカスカの状態になるということは、骨から血液中にカルシウムが溶け出していってしまっているということです。しかし血液中のカルシウム濃度は常に一定に保たれるため、骨から溶け出した過剰なカルシウムは尿中に排出され、結石のリスクを上げます。
さらに女性ホルモンには結石をできにくくするクエン酸を増やす働きもあります。このメリットも失うということは、女性は女性ホルモンが減少する時期から、尿中カルシウムが過剰になりクエン酸も減少することで、男性と同様に結石ができやすくなるのです。
尿路結石に関わる疾患
さまざまな疾患が尿路結石の形成リスク増大と関係しています。ここでは簡単にご紹介します。
一次性副甲状腺機能亢進症
副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度をコントロールする役目を担いますが、副甲状腺機能亢進症になると血液中にすでに十分なカルシウムがあるときにも骨からカルシウムを溶け出させてしまい、結果的に尿中に大量のカルシウムが排出されてリン酸カルシウム結石やシュウ酸カルシウム結石ができやすくなります。
痛風
尿酸はもともと水や血液に溶けにくい性質であるため、溶け切らなかった尿酸は結石の前段階である小さな集まり「結晶」をつくって関節や腎臓などに徐々に溜まっていきます。関節に溜まった尿酸結晶が炎症を起こし激痛発作を引き起こすのが「痛風」です。よって痛風の方はそもそも尿酸が多いということ、それに加えて尿が酸性に傾いてより尿酸が溶けにくくなることによって、尿酸結石ができやすくなります。
生活習慣病
肥満や糖尿病患者では尿酸結石の比率が高い傾向にあります。食後などに膵臓から分泌されて血糖値を下げる働きをするホルモンであるインスリンは、肥満や糖尿病の方においては上手く作用していない場合が多くあります。この、インスリンの作用が十分に発揮できない状態は「インスリン抵抗性」と呼ばれ、尿のpHを酸性に傾かせます。すると、結石ができやすくなってしまいます。また、高尿酸血症や偏食などによる尿酸結石のリスクも上がりやすいため注意が必要です。
髄質海綿状腎
胎児の発育中に、遺伝によらない異常が原因で発生する稀な疾患です。腎臓の中の尿が流れる細い管が拡張してしまいます。通常は無症状ですが、この疾患のある人の過半数は腎臓の組織にカルシウムが沈着し、腎結石の形成リスクが高まります。海外の研究には、カルシウム結石形成者のうちの12~20%、女性や20歳未満の患者に限れば20~30%が髄質海綿状腎であると報告しているものもあります。
サルスクリニックでご相談を
尿路結石の原因は多岐に渡るため、自分の現在の生活習慣や健康状態をきちんと調べない限り、何に気をつければ良いのか判断がつかないのではないでしょうか。この記事では細かく取り上げていませんが、特に食生活に関しては、「まずは減塩に取り組めばOK!」という高血圧症よりも複雑です。今回シュウ酸の多い食品として上げたほうれん草は、βカロテンを多く含む緑黄色野菜として、むしろ健康に良い食べ物だと認識している方も多いはずです。実際にほうれん草にはβカロテン以外にも鉄分やビタミンC、食物繊維も豊富に含まれており、大変優秀な野菜です。ではどうすれば良いのかというと、一つの解決策は必ず茹でてアクを抜くことです。こうすることでシュウ酸の含有量は半分にまで減少します。「うちではほうれん草のおひたしを作る時、時短のために茹でずに電子レンジを使っているのだけど…」という場合はどうでしょうか?実はこの場合は…などと、食べ物は調理方法によっても栄養が変わってきます。さらに尿路結石だけでなく別の疾患が既にあったり、別の疾患も同時に予防できるような献立を考えようとすると、ますます難解になってきます。食は日々欠かせないものです。その度に悩んだり極度に我慢したりせず、栄養と一緒に幸せも感じることができるような食生活を送りたいものですよね。
サルスクリニックには管理栄養士が常駐しておりますので、ライフスタイルや現在の疾患、予防すべき疾患、食事の好みなどを総合的に考えて、その方にとって最適な食事プランをご提案いたします。
また、尿路結石は腎臓の中にある段階だと無症状の場合が多いため、定期的に尿検査や血液検査などを受診することで、早めに発見できるようにしましょう。